IMSTとは“Inspiratory Muscle Strength Training”の略称です。
日本語にすると「吸気筋強化トレーニング」となります。
以前呼吸筋とトレーニングに関して、IMT:Inspiratory Muscle Training(吸気筋トレーニング)をご紹介いたしました。
“Strength(強化)” が入っているかいないかの違いがあるのが分かりますか?
名前は似ていますが、IMSTとIMTはトレーニング方法が異なります。
そして発声練習の記事でご紹介したように、発声ではIMSTの有効性が報告されてます。
ではIMSTとIMTでは実際何が異なるのか。
本記事では、IMSTとIMTとの違い、有効性に関するエビデンス、導入における実際上の注意点について解説します。
1. IMSTって何?
まずIMSTとは、「息を吸うときに使う筋肉(吸気筋)を鍛えるトレーニング」です。
呼吸にも筋肉が使われています。
主に横隔膜や肋間筋と呼ばれる筋肉が働いて、肺に空気を送り込んでいます。
IMSTでは、吸うときに抵抗のある器具を使って「キツめに」息を吸うことで、これらの筋肉を鍛えるというのが特徴です。
2. IMSTのやり方
IMSTのやり方についてです。
POWERbreatheを用いた研究があったので、そちらのやり方をご紹介します。
①吸う時にPOWERbreatheを加えて、息を吸う
② ①を6回繰り返し、1分休憩す
③ ②を合計5セット(呼吸回数は合計30回、所用時間は約5分)
④ ③を1日1回、週6日継続する
⑤ ④を6週間継続する
上記に加え、吸気時にかかる負荷を週ごとで段階的にupしていきます。
1. 1週目は55%のPImax
2. 2週目は65%のPImax
3. 3週目以降は75%のPImax
※PImaxに関してはIMTの記事を参考にしてください
>>なおこちらに上記の内容が動画付きで紹介されています(POWERbreatheのホームページです)。
※外部サイトに飛びます
3. IMSTの効果
ではIMSTを行うことでどのような効果が具体的に得られるかをご紹介します。
① 血圧の低下
上述したPOWERbreatheを用いた研究は、元々血圧降下作用があるかを調べるために行われています。実際に2週目ごろから徐々に血圧が低下したという結果になっております。
② 体力の上昇
吸気筋が鍛えられることで、呼吸筋は疲労しにくくなり、体力が上昇するとされています。
③ 睡眠の質の向上
「睡眠の質」を総合的に評価するために使われるPSQI(Pittsburgh Sleep Quality Index、ピッツバーグ睡眠の質質問票)のスコア改善を認めております。
夜間覚醒や睡眠の中断の減少、日中の眠気の改善も一部報告されています。
4. ではIMSTとIMTは何が違うのか?
では具体的に、IMSTとIMTは何が違うのか。
これは“Strength(強化)” の有無、つまり負荷強度が異なるということです。
項目 | IMT | IMST |
---|---|---|
目的 | 吸気筋の持久力の向上 | 吸気筋の筋力の向上 |
強度(負荷) | 低〜中程度(PImaxの30〜50%) | 高強度(PImaxの70%前後) |
時間・回数 | 1回30呼吸、1日1〜2回 | 1回6呼吸×5セット |
効果に関して、直接2つを比較してはいないので差は不明です。
ですが、どちらも呼吸筋の筋トレという面では効果はしっかりとあるように思えます。
IMSTの方が血圧や無呼吸など、疾病に対する効果が報告されていますね。
5. IMSTの注意点
IMSTはIMTと同様比較的安全なトレーニングです。
有害事象としてはIMTと同じく頭痛、呼吸困難、痛み、血圧上昇、めまいなど軽度の症状が報告されています。
やはり、“適切な圧”で“無理をしない”ということが何よりも大切です。
高血圧が持病である方は、かかりつけ医に相談してから開始する方が安全です。
そして“継続”が大切です。
6. まとめ
IMTとIMSTは正確には異なります。
イメージとしてはIMTは持久力、IMSTが筋力強化となります。
どちらも呼吸機能の改善や体力の上昇は認められているため、ご自身にあった方法を選びましょう。
そして、必ず無理せずに継続できる負荷で行いましょう。
- Vranish JR, Bailey EF. Inspiratory muscle training improves sleep and mitigates cardiovascular dysfunction in obstructive sleep apnea. Sleep. 2016 Jun 1;39(6):1179–85.
- Craighead DH, Heinbockel TC, Freeberg KA, Rossman MJ, Jankowski LR, Jackman AR, et al. Time-efficient inspiratory muscle strength training lowers blood pressure and improves endothelial function, NO bioavailability, and oxidative stress in midlife/older adults with above-normal blood pressure. J Am Heart Assoc. 2021 Feb 16;10(4):e020980.