「耳かきすると、なぜか咳が出るんだけど…」
そんな不思議な経験をしたことはありませんか?
実はこれは、身体の構造に由来した“正常な反応”で、決して珍しいことではありません。
今回はこの「耳かきで咳が出る現象」について、わかりやすく解説します。

この記事では暮らしに関わる身近な疑問に関してご説明しています
1. 咳はどうして起きるのか?
まず、咳のメカニズムを簡単におさらいしましょう。
咳は、気道(のど、気管、気管支など)に異物や刺激が加わったとき、それを排除しようとする体の防御反応です。風邪やアレルギー、煙、冷気など、さまざまな要因が咳を引き起こします。
つまり、咳は「気道の刺激に対する反応」と考える方がほとんどでしょう。
ところが、耳かきをしただけで咳が出る…というのは、少し不思議に感じますよね。
2. 実は耳と咳は“つながっている”んです!
その答えは、耳の中を走っている「迷走神経」にあります。
迷走神経は、脳から出て体のさまざまな臓器(気道、心臓、消化管など)に分布している重要な神経です。咳や嘔吐などの反射反応にも関与しており、自律神経の働きの中枢でもあります。
この迷走神経の一部は、耳の外側――外耳道の後ろ側にも分布しています。これが「Arnold神経(耳介枝)」と呼ばれる枝で、耳かきによる刺激がこの神経に触れると、反射的に咳が出ることがあるのです。
この現象は「耳咳反射(じがいはんしゃ)/ アーノルド神経反射」と呼ばれています。
似たようなメカニズムで生じる咳が、逆流性食道炎です。
これも同じく迷走神経を介して咳が出ます。
食道の下部には迷走神経が走っております。胃酸が逆流してこの神経を刺激することで、反射で咳が出てしまうんですね。
話している時に咳が止まらなくなる方で、実は逆流性食道炎だった、なんてことはよく臨床の現場で経験します。
3. 耳咳反射はどんな人に起こりやすいの?
では、どんな人に起こりやすいのか?
実はこれを調べた研究があります。
その報告によると、健康な成人と小児では2%という少ない結果が出ています。
しかし、慢性的に咳が出る人(例えば喘息や咳喘息など)を対象とした場合は25%と、健常な人と比較して高確率で反射を認めております。
加えて、女性が31%、男性が12%という結果です。
つまり咳発作が出やすい女性に反射が起こりやすいということになります。
4. 耳かきで咳が出るのは問題ない?病気のサインの可能性は?
基本的には、耳かきで軽く咳が出るだけなら生理的な反応であり、特に治療の必要はありません。
ただし、以下のような症状がある場合は要注意です。
- 咳だけでなく、めまい・吐き気・耳鳴りなどを伴う
- 咳が止まらなくなるほど強く出る、または常に咳が出ている
- 耳に痛みやかゆみ、膿が出るなどの異常がある
これらの場合は、外耳道の病変や迷走神経を刺激する異常病変が隠れている可能性もあるため、医療機関を受診することをおすすめします。
5. まとめ|耳と咳、実はつながっていた
耳かきで咳が出るのは、「迷走神経」を介した耳咳反射という、身体の正常な反応である可能性が高いです。
耳と気道が神経でつながっているという、人体の奥深さを感じる現象ですね。
ただし、咳以外の症状が強い場合や、違和感が続くようなら、一度医師に直接耳内を診てもらいましょう。
ちなみに、耳掃除は「やりすぎず、奥まで入れない」が鉄則です。
耳の健康を守りながら、快適な生活を送りましょう!
- Dicpinigaitis PV, Tibb AS, Rauf K. Prevalence of Arnold Nerve Reflex in Adults and Children With Chronic Cough. Chest. 2018 Mar;153(3):675–679.
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