新専門医制度をご存知でしょうか?
2018年に本格運用が始まったこの制度は、若手医師の研修環境を一変させました。
現場は混乱し、誰に聞いても「よく分からない」と言われ、非常に苦労したのを覚えています。
そんな制度が――実は、私が受けた医療経営士3級試験に関する問題で出題されていたのです。
正直、「えっ? こんなのも出るの?」と思いました。
私が使ったテキストには、少なくとも詳しくは書かれていなかったと思います(隅々まで読んだわけではないので、見落としていたかもしれませんが)。
ただ、制度を実体験として知っていた私は、答えられました。
ですが、制度の概要を知らなければ解答は難しかったと思います。
この記事では、あまり知られていない「新専門医制度」の概要と、なぜ医療経営士の試験で出題されるのかについて、簡単に解説していきます。

私がもう少し勉強しておけばよかったと感じた出題範囲を解説しています
この記事では以下の項目に関してそれぞれ説明しています。
〈まとめ〉|これだけは覚えておいた方がいい!
・2018年から新専門医制度が導入され、第三者機関である専門医機構による専門医認定が開始となった
・19の基本領域が制定された
・各病院ごとに専門医研修プログラムが導入された
・医師過多地域では研修プログラムへの参加人数に上限が設定された
・研修プログラムの一環として連携病院での研修が義務付けられた
それでは各項目について説明していきます。
1. 新専門医制度とは?
“新”とついておりますが、制度自体は2018年度から開始されております。
新専門医制度の対象は“2018年4月から基本領域の専門研修を始める医師”です。
すなわち“2018年3月以降に初期研修を終了した医師”になります。
この制度の最大の変更点は、従来は各学会が行っていた専門医の認定を、「日本専門医機構」という第三者機関が担うようになった点にあります。
この背景を理解するには、まず「学会とは何か?」を押さえておく必要があります。
学会とは、医師が任意で加盟する専門団体のことを指します。
日本には50以上の学会があり、医師はそれぞれの専門領域に応じた学会に所属しています。
学会では、定期的な学術集会に参加し、発表を通じて知見を深めることが求められます。
また、各学会は一定の条件(臨床経験や試験など)を満たした医師に対して「専門医資格」を付与してきました。
この仕組みが、いわゆる“旧専門医制度”です。
資格を得た医師は、「○○専門医」と名乗ることができるようになっていたのです。
日本専門医機構は厚労省の指摘により2014年に設立された“第三者的立場の認定機関”です。
厚労省の監視下にありますが、組織としては独立した一般社団法人に位置づけられています。
そしてこの機構を設立した主な目的は“専門医の質の担保”です。
旧専門医制度では、各学会が独自に専門医を認定していたため、基準にばらつきがありました。ある学会は筆記試験のみ、別の学会は論文作成を必須とするなど、難易度や要件に統一性がなかったのです。
そこで、アメリカのように第三者機関が一定の基準を定め、その基準を満たした医師に専門医資格を付与する仕組みへと変わりました。
これが“新専門医制度”です。
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2. 具体的に新専門医制度はどう変わったのか?
認定者が変わったという点については、すでにご理解いただけているかと思います。
しかし、それだけで現場が混乱したわけではありません。
実際には、制度の枠組み自体が大きく変わり、現場にはさまざまな戸惑いが生まれました。
結論から言えば、次のような変更点が加わったのです:
- 19の基本領域が制定された
- プログラムに乗らないと専門医が取得できなくなった
- 医師過多の地域には若手医師の人数制限が加えられた(シーリング制度)
- 連携病院での研修が必須となった
これらについて、具体的に解説を行なっていきます。
新専門医制度では、「内科」「外科」「小児科」「産婦人科」「麻酔科」など、専門医の土台となる“19の基本領域”が明確に定められました。
これにより、まずはこの基本領域の専門医資格を取得し、その後にサブスペシャリティ(呼吸器内科、循環器内科など)へと進む形が標準化されました。
つまり、いきなり呼吸器内科専門医を目指すのではなく、まずは内科専門医の資格を取得する必要があるという構造になったのです。
従来は、研修先を自分で選び、必要な研修や期間を満たせば、専門医の申請が可能でした。
しかし新制度では、日本専門医機構に認定された「専門研修プログラム」への所属が必須となりました。
プログラムとは、専門医機構の指針に基づき、各学会が基準を定め、各病院がそれに沿って策定したものです。
つまり、定められたプログラムを修了しなければ、専門医資格を取得できなくなりました。
その結果、家庭の事情やキャリアの希望によって自由に研修先を選ぶことが難しくなった医師も少なくありません。
プログラムに所属し、専門医取得のために日々研鑽を積む医師を“専攻医”と呼びます。従来だと後期研修医と呼ばれていた医師を指します。
特に影響が大きかったのがこの制度です。
都市部(東京・大阪など)への若手医師の集中を防ぐため、都市部の病院にはプログラムに乗れる医師の人数に制限がかけられました。
これを「シーリング制度」といいます。
その結果、都市部の人気病院のプログラムに応募しても、定員オーバーで不合格となり、「希望の研修先に進めなかった」という医師が多数出現しました。
この制度は、診療科ごとにも制限が異なります。
たとえば、眼科や皮膚科のように人気が高く、都市部に医師が集中している診療科では、特に厳しい定員制限が課せられています。
さらに、シーリングの定員数は年々少しずつ減らされています。
これは今後も都市部に医師が過度に集中しないようにするための方針だと思われます。

あくまで私個人の意見ですが、この新制度の本当の目的は「医師の地域偏在の是正(シーリング)」にあったのではないかと感じています。
制度上は「専門医の質の担保」が目的とされていますが、指導医の質、症例数、医療設備の整った都市部の病院と、そうでない地域の病院とでは、“研修の質”が完全に等しいとは言い難いのではないでしょうか。
新専門医制度では、研修病院単独での専門医取得が原則できなくなりました。
代わりに、基幹施設(中心となる大病院)と連携施設(地域の中小病院など)で構成される“研修プログラム”全体を通して研修することが必須となったのです。
つまり、研修期間中に必ず一定期間、連携施設に赴いて研修を行う必要があるということです。
プログラムに“出向”が制度として最初から組み込まれているのです。
この制度の背景には、都市部に集中しがちな医師を地域に分散させる目的があります。また、多様な症例を経験させることも狙いとされています。
ただし、実際には「生活環境の変化」や「家庭の事情」などの個人的な事情により、一定期間地方へ移ることが困難な医師も多く、制度に戸惑う声も多く聞かれました。
研修内容の均質化という面では意義のある仕組みかもしれませんが、現場ではその柔軟性のなさが問題になることもあったのが実情です。
3. なぜ新専門医制度が医療経営士の試験に出るのか?
医療経営士は医療の「経営」や「マネジメント」を担う人材として、制度・仕組みに対する理解が求められます。
専門医制度は医療人材の流動性や地域偏在、教育資源の分配などに直結する重要な制度設計の一つです。
たとえば「地域の基幹病院が専門研修施設であるかどうか」で医師の集まり方が変わるため、病院経営にも影響を与えます。
つまり、日本専門医機構は、医師のキャリア形成と地域医療構造に影響を与える存在として、医療経営を考える上でも押さえておくべきポイントなのです。
4. まとめ
新専門医制度は、専門医の質の担保や医師の地域偏在の是正といった目的のもと、2018年から本格的にスタートしました。
制度の背景には医療全体のバランスを整える意図があるとはいえ、現場の医師にとっては「希望通りの進路が選びにくくなった」「生活や家庭への影響が大きい」といった戸惑いも少なくありません。
医療経営士の立場としては、この制度が現場にどのような影響を及ぼしているかを知っておくことが重要です。
試験対策としても、「なぜこの制度が導入されたのか」「どのような仕組みか」「現場ではどんな課題があるのか」といった視点で整理しておくと、応用問題にも対応しやすくなるでしょう。