「IMT : Inspiratory Muscle Training(吸気筋トレーニング)」って聞いたことありますか?
呼吸の内、呼気とは息を吐くこと、吸気とは息を吸うことを指します。
吸気筋は息を吸う時に使用する筋肉のことで、この筋肉は鍛えることができます。
そして、そのトレーニング方法をInspiratory Muscle Training、通称IMTと言います。

この記事では、以前呼吸筋の記事内で紹介したIMTについて分かりやすくご紹介します
1. IMTとは?── 呼吸筋を鍛えるトレーニング
IMT(吸気筋トレーニング)は、呼吸の“吸う”動作に使われる筋肉、つまり吸気筋を鍛えるトレーニングです。
主に鍛えられるのは横隔膜と肋間筋。これらは私たちが空気を吸い込む際に働く、いわば“呼吸のエンジン”です。
専用のトレーニングデバイスを使うことで、息を吸うときに一定の抵抗がかかり、その抵抗を乗り越えることで筋肉が鍛えられます。まさに、ダンベルで腕を鍛えるのと同じ原理です。
2. IMTの効果 ─ 呼吸がラクに、動ける体に
IMTには、さまざまな効果が期待されています。
特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や心不全などで呼吸がつらい方にとって、大きな助けとなると考えられています。
主な効果は以下の通りです:
- 呼吸困難感の軽減
- 運動耐容能(体を動かせる力)の向上
- 呼吸補助筋(首まわりや肩の筋肉など)の負担軽減
- 日常生活の動作がラクに感じられるようになる
- スポーツ選手では、持久力やパフォーマンスの向上にも
実際、医学的な研究でもCOPD患者の息切れ改善や歩行距離の延長が報告されています。

慢性的な呼吸器疾患を悩む方のリハビリに有用だと報告されていますね
3. IMTの方法 ─ 継続がカギ
IMTは、筋トレと同じで「継続」がポイントです。
最初は少し地味に感じるかもしれませんが、続けることで確実に呼吸がラクになり、日常生活や運動中のパフォーマンス向上を実感できます。
どんなデバイスを使うの?
IMTでは、専用のデバイス(機器)を使ってトレーニングを行います。
これらのデバイスは、「息を吸うときに抵抗がかかる仕組み」になっており、吸気筋に負荷をかけることでトレーニング効果を生み出します。
主なデバイスの種類と構造
1. POWERbreathe(パワーブリーズ)シリーズ
自動で適切な圧を設定してくれる最先端のものから、自分で負荷を細かく調整できるものまで、複数の種類があります。
初心者からアスリートまで幅広く使用できるデバイスです。
自動で負荷を調節してくれるデジタルモデルは高額ですが、負荷を自分で調整するメカニカルモデルは1万円台のため、初心者は負荷の低いメカニカルモデルから導入してみるのがいいと思います。
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2. Airofit(エアロフィット)
アプリと連携して、吸気筋のトレーニングプログラムを自動調整してくれるデバイスです。
さらに、呼吸のトレーニングデータをスマホで可視化できるため、モチベーション維持に役立ちます。
パワーブリーズと異なり、ハンズフリーでデバイスを手で持つ必要はございません。
その分価格は3〜5万円台と高く設定されております。
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IMTの方法
さて、デバイスを購入したらIMTの開始です。方法について順番に解説します。
① 負荷の決定
本来であればIMT開始時の負荷は最大吸気圧(MIP)の30~50%程度の設定を推奨されております。
しかし、MIPは医療機関で行う肺機能検査(スパイロメトリー)でなければ測定できません。しかもMIPの測定ができるスパイロメーターは限られており、肺機能検査ができるからといってMIPまで測定できるわけではございません!

呼吸筋の測定はあまりメジャーではないんです・・・
そのため、開始時の負荷は以下を参考にしてください。
・負荷の低いデバイスから開始し、主観的に徐々に上げていく
→筋トレと同じで、トレーニングに慣れてきたら徐々に負荷を上げていく
・年齢、身長、体重からMIPの予測値を算出し、開始圧を決める
低い負荷で始めたい:予測PImax✖️0.3
高い負荷で始めたい:予測PImax✖️0.5
男性:予測PImax=45.0ー0.74✖️年齢+0.27✖️身長(cm)+0.60✖️体重(kg)
女性:予測PImax=ー1.5ー0.41✖️年齢+0.48✖️身長(cm)+0.12✖️体重(kg)
・自動で圧を設定してくれる、電子式IMTデバイスを使用する
※無症状の方が医療機関で圧測定目的に肺機能検査を行う場合は自費診療になる可能性があります。ご注意ください。
② 実施頻度と期間
1日2回、1回につき30呼吸が基本です。
週5〜7回、6〜8週間以上継続すると効果が出やすいとされています。
上述したように、慣れてきて徐々に筋力がついてきたら少しずつ負荷を上げていきましょう。
4. IMTの注意点 ─ 無理せず、安全に
IMTは比較的安全なトレーニングです。ある研究ではIMTによって発生した有害事象として頭痛、呼吸困難、痛み、血圧上昇、めまいなど軽度の症状が報告されています。
これらは一過性であり、重大な健康被害には至らなかったとされています。
また、日本国内の報告では5%に有害事象を認めており、極少数ではございますが不整脈や気胸の発生報告もございました。
有害事象が発生した理由として、圧不可が高すぎたり、適切に使用できていなかったなどの理由もあるようです。
まとめると、注意点は以下のようになります。
- 持病がある方(特に心肺疾患)は医師と相談を
- 自分の状態に合った負荷設定を行うこと
- 継続が大切。毎日の習慣に取り入れる工夫を
少数ではありますが、有害事象の報告があることを考慮すると、基礎疾患のある方は医療者の指導のもとで取り組むのがベストです。
5. まとめ ─ 「呼吸を鍛える」という選択肢を
呼吸が浅く感じたり、少しの運動で息切れしやすいと感じているなら、IMTは新しい一歩になるかもしれません。筋肉と同じように、呼吸にも“コツコツ鍛える”ことが必要です。
そして、IMTは慢性呼吸器疾患の方に有効であることが報告されています。投薬を継続してもなかなか改善しない場合、一度かかりつけの医師に相談してみるのが良いでしょう。
ぜひ、自分の呼吸と向き合う時間を作ってみてください。
- Hulzebos EHJ, et al. Safety and efficacy of inspiratory muscle training for preventing adverse outcomes in patients at risk of prolonged hospitalisation. Thorax. 2006;61(5):389-395. doi:10.1136/thx.2005.045161
- 三好沙耶香. 本邦における呼吸筋トレーニングの現状と課題. 理学療法学. 2020;47(4):355-361.
- 藤田幸男, 他. 最大呼気・吸気筋力の加齢変化. 日本胸部疾患学会雑誌. 1997;35(12):1370-1376.
- 荒川義弘, 他. 主観的運動強度に合わせた吸気筋トレーニングの効果. 理学療法科学. 2015;30(4):567-571.