はじめに:医療経営士を取ろうと思ったきっかけ
医療経営士という資格に辿り着いたきっかけは、勤務医として働く中で、何度となく耳にした言葉でした。
「収支が悪い。赤字だから頑張ってほしい」
「保険が切られるから、この検査は気をつけてほしい」
医学の勉強はしてきたつもりでした。
でも、病院や診療所がどうやって成り立ち、どこで利益が出て、どこにコストがかかっているのか——そうした“経営の仕組み”は、まるで別世界の話のように思っていました。
ただでさえ多忙な業務に追われる中、上から「赤字だから患者数をもっと増やしてほしい」と指示されたとき、ふと強く思ったのです。

このままじゃまずい。診療のことはわかっても、経営はまったくの素人だ
企業であれば、経営が苦しくなったときこそ「今、自分たちの会社がどんな立場にいて、社員に何を求めているのか」を全員が理解している必要があります。
それは病院も、診療所も同じです。
医療機関の収支構造や、保険診療の制度——これまで“気にしなくてもやってこられた”部分を、今こそ学び直すべきだと思いました。
そんな思いから、私は「医療経営士」という資格を手に取ることにしたのです。
この記事では医療経営士とは何か? 実際に取ってみた感想を交えながら説明していきます。
1. 医療経営士とは?
まず、「医療経営士」とは、一般社団法人 日本医療経営実践協会が認定する民間資格です。
これは医療現場で活躍する人材が、医療経営を体系的に学び、実務に活かすことを目的としています。
- 3級〜1級までの段階的なレベル設定
- 病院職員、医師、事務長などが多数取得
- 全国で累計約2万人以上(2025年現在)が資格取得
民間資格ではありますが、多くの公的医療機関や病院団体と連携しており、制度的な信頼性が高い点が特徴です。
2. なぜ医療経営士が注目されているのか?
現在、病院と診療所を取り巻く環境は激変しています。
例えば、以下のようなことが挙げられます。
- 保険制度改革による収益構造の変化
- 地域医療構想による再編・統合の動き
- 働き方改革と人材難
- DX(医療のデジタル化)への対応
これらに対応するためには、医療の専門知識だけでは不十分で、経営の視点やマネジメント能力が求められています。
特に経営幹部を目指す医療従事者にとって、「医療経営士」は医療経営を“体系的に学ぶ”手段として注目されています。
3. 医療経営士を取得すると、何が得られるのか?
では実際に、医療経営士の資格を取得するとどんなメリットがあるのでしょうか?
ただ「資格を取った」で終わらないよう、団体から提供されるリソースや制度をご紹介します。
① 認定証と資格カードの発行
合格後、登録手続き(登録料22,000円)を行うと「医療経営士カード」と「認定証」が届きます。
これにより、公式に資格者として認められ、履歴書などにも記載可能になります。
② 会報誌・メールマガジンの提供(情報リソース)
試験に合格し、会員登録をすると、「医療経営士通信」や「MMSニュース」など、医療経営に関する情報誌・メルマガが定期的に配信されるようになります。
こうした自然に届く情報は、“プッシュ型情報”と呼ばれます。
それに対して、自分で調べに行く情報は“プル型情報”です。
プッシュ型の情報は、ときに自分には関係のない話題(ノイズ)を含むこともありますが、その中に思わぬ気づきや発見があるのも事実です。そうした偶然の出会いから「気になるテーマ」を見つけ、それをプル型で深掘りしていく――そんな情報の連鎖が自然と起こるのが魅力です。
医療経営に関するリソースは、そもそも数が少なかったり、必要な情報に辿り着くのが難しかったりします。
そうした中で、会員特典として情報が“自然に届く”仕組みがあるのは、大きなメリットだと感じました。
③ セミナー・勉強会への参加、コミュニティのつながり
医療経営士の資格を取得すると、協会が主催するセミナーや勉強会、各種講座に優先的に参加できるようになります。
会員価格で割引が適用されることも多く、継続的な学びのハードルが下がります。
また、こうした場では、病院経営者、事務長、医療系ベンチャー関係者など、多様な立場の人々と出会える機会があります。
現場以外の世界に触れ、視野を広げる機会としても、こうしたリアルな場は貴重です。
4. 医業経営コンサルタントとどう違うのか?
また、医療経営士に関連する資格として、医療経営士の他に「医業経営コンサルタント」という資格があります。
どちらも国家資格ではなく、民間資格である点では同じです。
主な違いは以下の通りです(2025年度):
比較項目 | 医療経営士 | 医業経営コンサルタント |
---|---|---|
資格種類 | 民間資格(一般社団法人) | 民間資格(公益社団法人) |
受験資格 | 誰でもOK(3級のみ) | 医業経営管理能力検定の合格者 指定講座の受講者 |
登録料 | 10,000円(初回) | 80,000円(初回) |
年会費 | 10,000円 | 120,000円 |
難易度 | 3級は合格率30%後半 | 1次試験、2次試験(論文)の合格が必要 |
主な対象 | 医療職・事務職全般 | 主に医療経営専門職(コンサル会社など) |
ではどちらの資格を受験するか?
日本医業経営コンサルタント協会は公益社団法人として内閣府から認定された団体であり、その点では公的な信用度がやや高いと言えるでしょう。
一方で、医業経営コンサルタントの取得には、登録料・年会費・講座・受験料などを合わせて20万円以上の費用がかかるため、気軽に受験できる資格ではありません。
私の個人的な印象としては、
→医療職として働きながら経営知識を補いたい方には「医療経営士」
→ 医療経営そのものを専門職として極めたい方には「医業経営コンサルタント」
が合っているのではないかと思います。
会費や登録料、合格率は変更される可能性がございます。最新のデータをホームページからご確認ください。
※外部リンクに飛びます
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5. まとめ:医療経営士は“視点を変える”資格
医療経営士は、取得したからといって何かが劇的に変わる資格ではありません。
ですが、「診療する自分」と「経営される現場」の間に、一本の橋をかけるような“視点”を持てるようになったのは、大きな収穫でした。
「それなら、勉強するだけで資格は要らないのでは?」
そう思う方もいるでしょう。それも一理あります。
ですが、せっかく勉強したことが資格という形で評価されるのは、意外と嬉しいものです。
そして“肩書き社会”の日本においては、たとえ3級であっても「一定の基礎知識がある」というラベリング効果を持ちます。
決して無意味な肩書きではないと私は感じています。
私のように、「収支がどうこう言われても、なぜそうなるのか分からない」とモヤモヤしたことがある方にとって、
この資格は、経営を“他人事”にしないための良い入り口になるはずです。
勉強方法や試験の体験談に関しては別の記事で投稿する予定です。そちらをご参照ください。