パルスオキシメーターとは?──光と拍動で読み取る酸素のサイン

パルスオキシメーターとは

パルスオキシメーターをご存知でしょうか?

いまではドラッグストアやネットで簡単に手に入るようになりましたが、コロナ禍のピーク時には一時的に品切れが続くなど、ちょっとした騒動になった医療機器です。

簡単に言えば、指にはめるだけで血中の酸素の状態をチェックできる小さな機械。

正式には「SpO₂(経皮的動脈血酸素飽和度)」を測るものです。

──とはいえ、私自身も研修医時代には、その仕組みを深く理解していたとは言えませんでした。

麻酔科のローテート中、ある指導医とのやり取りがありました。

指導医
指導医

パルスオキシメーターって何を測ってるの?

銀次郎
銀次郎

SpO2です

指導医
指導医

SpO2の日本語名は?

銀次郎
銀次郎

えっと……経皮的動脈血酸素飽和度です

指導医
指導医

じゃあ静脈は?

銀次郎
銀次郎

えっ?

指導医
指導医

指には静脈も流れているでしょ?

それなのに、なんで“動脈”って言えるの?

ふと投げかけられたこの問いに、私は答えに詰まりました。

なんとなく「光を当てて測っている」ことだけは知っていたものの、なぜ動脈血だけを測れるのか、という核心には迫れていなかったのです。

この小さな機器の仕組みを、私たちはどれだけ理解しているでしょうか?

今回は、

なぜ光で酸素飽和度がわかるのか?

“なぜ動脈血だけが測定できるのか?”

といったパルスオキシメーターの原理について、やさしく解説していきます。

1. パルスオキシメーターの基本構造と測定原理

パルスオキシメーターは、主に赤色光(約660nm)と赤外光(約940nm)の2種類の光を指先などに照射します。

そして透過した光の吸収率を測定することで、血中の酸素飽和度(SpO₂)を推定しています。

この2つの波長が使われているのは、血液中のヘモグロビンがそれぞれの光に対して異なる吸収特性を持つためです。

ヘモグロビンとは?

酸化、還元ヘモグロビン

ヘモグロビンは赤血球に含まれるタンパク質で、酸素を体内の各組織に運ぶ「運び屋」のような役割を担っています。

酸素と結合したヘモグロビンは酸素化ヘモグロビン(HbO₂)、酸素が外れた状態のものは還元ヘモグロビン(Hb)と呼ばれます。

それぞれの色も異なり、酸素化ヘモグロビンは鮮紅色、還元ヘモグロビンは暗赤色をしています。

動脈では酸素化ヘモグロビンが多く、静脈では酸素を放出した還元ヘモグロビンが多くなります。

私たちの目に、動脈は赤く、静脈は青っぽく見えるのはこのためです。

光の吸収特性の違い

パルスオキシメーターの原理

酸素化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンでは、特定の波長の光に対する“吸収率”が異なります。

  • 酸素化ヘモグロビン:赤外線をよく通し、赤色光を吸収する
  • 還元ヘモグロビン:赤色光をよく通し、赤外線を吸収する

この光の吸収特性の差を利用し、2種類の光を照射・測定することで、酸素化ヘモグロビンの割合=酸素飽和度を非侵襲的に推定できるのが、パルスオキシメーターの原理です。

2. なぜパルスオキシメーターは動脈血だけを測定できるのか?

パルスオキシメーターは、指先の動脈血の酸素飽和度を測定しています。

しかし、指先には動脈だけでなく静脈や毛細血管も通っているはずです。それにもかかわらず、なぜ動脈血のみが測定されるのでしょうか?

実は、そのヒントはこの機器の名前に隠されています。

「パルスオキシメーター」の「パルス(pulse)」とは、脈拍のこと。実際、機器の画面にはSpO₂と並んで「PR(Pulse Rate:脈拍数)」の表示があります。

脈拍、つまり拍動するのは動脈です。静脈や毛細血管は、基本的に拍動しません。

つまりこの機器は、「拍動に伴う変化」だけを捉えて解析しているのです。

パルスオキシメーターは、赤色光と赤外線の吸収量が時間とともにどのように変化するかを記録しています。この吸収量の変動は、拍動する動脈を流れる血液の量が増減することで生じます。

一方で、静脈血や周囲の皮膚、骨、その他の組織による光の吸収は時間的にほぼ一定。このため、それらの影響を排除し、動脈血だけに由来する吸収変化を選択的に抽出できるのです。

3. パルスオキシメーターは日本人が開発した技術!

実はこの革新的な医療機器、1970年代に日本の技術者・青柳卓雄氏によって開発されました。

それから約半世紀の時を経て、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、パルスオキシメーターの重要性が世界的に再評価され、多くの国で医療の現場に欠かせない存在となりました。

その功績により、青柳氏は晩年まで国内外の数々の賞を受賞。発明から50年が経った今も、その技術は世界中で命を守り続けています。

こうして日本発の医療技術が世界に貢献しているという事実は、私たちにとっても大きな誇りですね!

4. 正確に測れないケースと注意点

日本呼吸器学会の『パルスオキシメーターハンドブック』では、健常人のSpO₂は96〜99%が基準とされています。

一方、90%以下では呼吸不全が疑われ、早急な検査と専門的治療が必要とされています。

しかし、数値が正常だからといって安心はできず、逆に数値が低いからといって必ずしも重症とは限らないのが実際です。

その背景には、以下のような測定エラー外的要因が存在します。

原因分類具体例
末梢循環不良低体温、ショック状態、血管収縮(手指の冷え)
外部干渉強い外光、体動、振動など
ネイルの影響赤や黒のマニキュア、ネイルチップ
ヘモグロビン異常一酸化炭素中毒、メトヘモグロビン血症など

このように、便利な機器ではあるものの、常に正確な値が表示されるとは限りません

パルスオキシメーターの数値はあくまで目安の一つと捉え、自覚症状や経過、全身状態を総合的に判断することが大切です。

5. まとめ

パルスオキシメーターは、「光」と「脈拍」というシンプルな仕組みを使って、体に負担をかけずに酸素の状態を測れる優れものです。

その裏には、動脈の拍動だけを見分ける技術や、光とヘモグロビンの性質を活かした工夫が詰まっています。

そして、この技術は日本で生まれたものです。

呼吸器診療や手術中の管理はもちろん、コロナ禍では一般のご家庭でも広く使われるようになりました。

身近な存在となったこの小さな機器の凄さに、改めて驚かされますね。

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