お酒の席でふと気づく、「なぜか咳が止まらない」「むせるような感じが続く」。
そんな経験はありませんか?
たまに診察室でも「お酒飲んだ後に咳が悪化するんです」と相談されることがあります。
実は、お酒と咳には意外な関係があります。
今回は、お酒と咳の関係について詳しく解説します。

この記事では暮らしに関わる身近な疑問に関してご説明しています
なぜお酒で咳が出るの?主な4つの原因
ではなぜお酒を飲むと咳が出てしまうのか?
主な4つの原因をそれぞれご説明します。
まずヒスタミンの影響です。
ヒスタミンとは体内でアレルギー反応に関与する化学物質です。過剰に摂取すると、くしゃみや咳、かゆみなどの症状を引き起こすことがあります。
ヒスタミンは発酵食品やお酒にも含まれています。
特に多いのが“赤ワイン”です。皮や種ごと発酵させる赤ワインは、果汁しか使用しない白ワインと違って、ヒスタミンを多く含んでいます。
では赤ワインを避ければいいのかというとそうではありません。
発酵過程のある食品はヒスタミンが含まれています。ビールでも、白ワインでも、チーズでも同じです。
これは発酵過程で、自然にヒスタミンが生成されてしまうのが原因です。
次にアセトアルデヒドの影響です。アセトアルデヒドをご存知でしょうか?
これはお酒に含まれるアルコールが分解される過程でに体内で作られる代謝産物です。顔が赤くなる要因ですね。
このアセトアルデヒドは気道にある肥満細胞からヒスタミンを放出させます。
つまり、ヒスタミンが少ないお酒でも、アルコール自体が体内のヒスタミンを増やしてしまうということです。
次に胃酸の影響です。
アルコールは、胃と食道の間にある下部食道括約筋(LES)の圧力を低下させることが知られています。
この筋肉の弛緩により、胃酸が食道へ逆流しやすくなり、咳や胸焼けなどの症状を引き起こす可能性があります。
炎症がひどくなると逆流性食道炎(GERD)と診断されることもあります。
では、なぜ胃酸が逆流するだけで咳が出るのか?
これは食道の下部に走る迷走神経の影響です。迷走神経は咳反射を起こさせる神経であり、胃酸がこの神経を刺激するためだと考えられています。
迷走神経に関しては耳かきの記事でも触れています。
最後に感染症の影響です。
風邪をひいている時にお酒を飲むと感染症が悪化し、症状を助長することがあります。
特に肺ではアルコール摂取により免疫力が低下し、肺炎のリスクが増えることが報告されています。
感染症が悪化すれば、風邪症状による咳は長引くと予想されます。

風邪引いたから、アルコール飲んで消毒・・・なんてことはやめてください
一般に「お酒で咳が出る」「気分が悪くなる」といったアレルギーのような反応はよく見られます。
しかし厳密な意味での“アルコールアレルギー”は非常にまれです。
ごく一部の人には、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドに免疫反応を起こして、蕁麻疹や呼吸困難、アナフィラキシーといった強いアレルギー症状を引き起こします。
一方で、赤ワインやビールに多く含まれるヒスタミン、白ワインなどに使われる保存料、またはビール中の小麦由来の成分などに対するアレルギー反応の方が、多く報告されています。
さらに、もともと日本人欧米人と比較しお酒に弱いです。
アセトアルデヒドを分解するALDH2という酵素が存在します。
日本人は遺伝的にこのALDH2酵素の活性が低下しています。
アルコール代謝物であるアセトアルデヒドが体内に蓄積しやすく、顔面の紅潮や喉の痒み、咳が出やすいのです。
これはアレルギーではなく「アルコール不耐症」と呼ばれる反応です。
まとめ
お酒は適度に楽しむことでリラックス効果も期待できますが、咳が出やすい人は自分の体質を知ることが大切です。
ちょっとした咳でも、体からのサインを見逃さないよう気をつけてください。
もし気になる症状が続くようなら、医療機関で相談してみましょう。
- Jiaqi Pan, Alcohol consumption and the risk of gastroesophageal reflux disease: A systematic review and meta-analysis. Alcohol and Alcoholism, 54(1), 62–69.
- Samokhvalov A.V., Irving H.M., & Rehm J. (2010). Alcohol consumption as a risk factor for pneumonia: a systematic review and meta-analysis. Epidemiology and Infection, 138(12), 1789–1795.