【発声練習×呼吸】|呼吸で変わる!声の土台とトレーニング法

発声練習をしているのに、思うように声が出ない――そんな悩みを抱えていませんか?

声優や歌手など“声”を武器にしたプロを目指す方にとって、声のコンディションは日々の生命線ともいえます。

では、その発声の“土台”が何か、深く考えたことはありますか?

実は、発声の安定性・持続力・表現力には、呼吸=肺と横隔膜の使い方が深く関わっています。

本記事では、声と呼吸の関係を科学的に解説しながら、パフォーマンスを高めるための呼吸トレーニング法をご紹介します。

1. 発声練習-声帯は「マイク」、肺は「エンジン」

発声練習を語る上で欠かせないのが、メカニズムの理解です。

まず発声とは、肺から押し出された呼気(息)が、喉頭内にある声帯(声門)を振動させることで音声を生み出す現象です。

1-1 声の高さは声帯の振動数で決定している

音の高さは、声帯の振動数によって決まります。

試しに「あー」と高い声と低い声を交互に出してみてください。

高い声を出すときは、喉元がキュッと引き締まるような感覚があるはずです。一方、低い声を出すときは、喉がリラックスし、緩んだように感じませんか?

これは、高音では声帯が緊張し、低音では声帯が弛緩している状態です。

緊張した声帯はピンと張られ、速く振動するため高い音が出ます。弛緩していると振動は遅くなり、低い音になります。

これはギターの弦にも似ています。弦を強く張ると高音に、緩めると低音に変化します。

声帯も同じく“弦楽器”のように動き、音を作っているのです。

発声のイメージ図
発声の声帯イメージ図

1-2 声の大きさは空気の量に関係している

一方、声の大きさは、主に声帯下の空気圧(声門下圧)によって調整されます。

つまり、肺からどれだけ強く、持続的に空気を送り出せるかがポイントです。

大きな声を出すとき、「お腹から声を出して!」と言われた経験はありませんか?

これは、横隔膜と腹筋を使って肺の空気をしっかり送り出す“腹式呼吸”の重要性を意味しています。

また、長いセリフやフレーズを安定して発声するには、呼気の持続力や肺活量も不可欠です。

呼吸が乱れると、声も揺れやすくなります。

横隔膜が弛緩すると空気が押し出される

1-3 声の土台を整えるということ

つまり、肺は声を生み出す“ガソリンタンク”であり、“エンジン”でもあるのです。

どれほど繊細で優れた「マイク」――すなわち声帯――を持っていても、そのマイクに送る「電源(呼気)」が弱ければ、
声の表現力、安定感、音圧(声の芯)は出せません。

発声練習を本気で行うなら、声帯だけでなく「呼吸」も整えることは、効果的なアプローチなのです。

2. 発声練習における呼吸トレーニングの科学的根拠

発声力を高めるために、呼吸筋のトレーニングが有効だとする研究が数多く報告されています。

以下に3つご紹介します。

2-1 腹式呼吸エクササイズと最大発声持続時間

いわゆる「お腹から声を出す」発声法は、横隔膜を使った腹式呼吸が基盤です。

この腹式呼吸をトレーニングとして行うことで、最大発声持続時間が改善したとする研究があります。

やり方は以下の通りです。

  1. 楽な姿勢で座る or 仰向けになる
  2. 片手を胸、もう片手をお腹に置く
  3. 鼻からゆっくり吸って、お腹を膨らませる(約6秒)
  4. 口からゆっくり吐いて、お腹をへこませる(約6秒)
  5. これを10回×1〜3セット、毎日継続する

2-2 呼気筋強化トレーニング(IMST)の効果

声の大きさは、声帯の下から押し上げる声帯下圧によって調整されます。

一見、強い圧力があれば大きな声が出ると思いがちですが、高すぎる圧は息切れや声帯の酷使を招きます

そこで重要になるのが、必要最小限の圧を効率よく出せる吸気筋強化トレーニング(IMST:Inspiratory Muscle Strength Training)です。

IMSTとは? 1日5分で呼吸が変わる?

これは以前他の記事でご紹介した吸気筋トレーニング(IMT:Inspiratory Muscle Training)とは少し異なります。

声帯萎縮のある高齢者に対してIMSTを導入した研究では、声帯下圧のコントロール能力と呼気流速の改善が報告されています。

2-3 息どめ引っ張り運動

Breath-holding Pulling Exercise(BPE)というものがあります。直訳すると息どめ引っ張り運動

BPEは、声門を閉じる筋肉(閉鎖筋)に負荷をかけて鍛える方法です。

高齢者の声帯萎縮に対する研究では、最大発声時間や声の安定性・強度が有意に改善したと報告されています。

やり方は以下の通りです。

  1. 姿勢を正す(背筋を伸ばす)
  2. 深く息を吸う(肺を満たす)
  3. 息を止める(3〜5秒間)
  4. 同時にタオルなどを軽く引っ張る/物を持ち上げる(下半身や体幹に軽く力を入れる)
  5. 力を抜き、普通に呼吸に戻る

これを数回繰り返します。

3. 発声練習で科学的根拠のある、その他のトレーニング

第2章では呼吸に着目したトレーニングを紹介しました。

次に発声自体の効率を高めるトレーニングをご紹介します。

これらは SOVT(Semi-Occluded Vocal Tract:声道準狭窄)エクササイズと呼ばれる手法です。

発声時に声道の一部を意図的に狭めることで、声帯への負担を軽減しつつ、共鳴や空気圧の調整を助けることが目的です。

3-1 リップトリル

唇を震わせることで、声帯にかかる負担を分散させながら呼気の安定や共鳴を高めるトレーニングです。


発声前のウォームアップや、声のリセットにも効果的とされています。

  1. 唇をリラックスさせる
     上下の唇を軽く閉じ、脱力させる(ブーっと音が出るくらい)
  2. 鼻から息を吸い、口から息を吐く
     声を出さずに「プルルルル……」と唇が振動するように吐く
  3. 慣れたら声を乗せる
     「プルルル〜」に声を加える
  4. 音域を変えて練習
     低音〜高音、母音を意識せずに声帯の閉鎖や呼気の安定を確認

3-2 ストロー発声

細いストローをくわえて発声することで、声門の安定と共鳴の最適化を促します。

声の出しにくさや疲労感がある時、または日常的な声のメンテナンスとして推奨されています。

  1. 細めのストローを1本用意
     内径3〜6mm、長さ10〜15cmが目安
  2. ストローを唇でくわえ、隙間を作らないようにする
  3. 鼻から息を吸い、口からストローを通して吐く
     まずは「フーーーッ」と声を出さないで練習
  4. 慣れたら声を乗せる
     「ウーーー」と単音を出す。音階で上下させる。
  5. 応用編:水中ストローフォネーション
     ペットボトルに1〜2cm水を入れて、ストローの先を浸しながら発声
     → 適度な抵抗感が声帯の振動効率を高めると言われています

4. まとめ|呼吸が変わると、声が変わる

「声が安定しない」「表現が思い通りにいかない」と感じている方ほど、“呼吸”から見直すことで大きな変化が起こりえます。

肺活量や呼気の持続力はトレーニングで十分伸びます。

それは、声を出すための「土台」がしっかりしてくるということ。

そして何より、正しい呼吸は疲れにくさ・緊張の軽減・声帯の保護にもつながります。

参考文献

  1. Chukwu, S. C. Effects of diaphragmatic breathing exercise on respiratory functions and vocal sustenance in apparently healthy vocalists. J Voice, 39(2), 564.e37–564.e44. 
  2. Desjardins, M. Respiratory muscle strength training to improve vocal function in patients with presbyphonia. J Voice, 36(3), 344–360.
  3. Motohashi, R. Effectiveness of breath-holding pulling exercise in patients with vocal fold atrophy. J Voice, 39(1), 282.e29–282.e35.
  4. Meerschman, I. Effect of three semi-occluded vocal tract therapy programmes on the phonation of patients with dysphonia: Lip trill, water-resistance therapy and straw phonation. Int J Lang Commun Disord, 54(1), 50–61.

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